「残留農薬」の意味を知る

残留農薬は人間の健康被害の原因となりえます。また農薬がその土地の土壌や水域にも影響をもたすことで環境破壊につながることもあります。そのため農薬の残留基準は日本において厳しく管理されているものであり、国内にはどのような制度や管理体制があるのかを、キーワードをかいつまみながら説明して行きたいと思います。

農薬の定義

農林水産省のHPに提示されている説明を引用すると、「農作物や観賞用植物など人が育てている植物に発生する害虫や病気を退治したり、雑草を除いたりするために使われる薬剤などのことです。日本で使ってもよい農薬は、人の健康や環境への影響などについて確かめられ、国に認められたものだけです。

農薬は、農作物や観賞用植物以外に、ゴルフ場や公園の芝生、街路樹などにも使われます」と書かれています。農薬に指定されているものは主に殺虫剤、殺鼠剤殺、殺菌剤、除草剤があります。

日本で使ってもよい農薬とは

日本において残留農薬に関する法律は「農薬取締法」と「食品衛生法」です。「農薬取締法」は農林水産省の管轄で、使用可能な農薬の登録(日本では登録のない農薬は使えない)、農家に対する残留基準・使用基準を設定、検疫所における輸入食品の農薬についての検疫を行なっています。

「食品衛生法」は厚生労働省の管轄で、食品安全委員会が安全と評価した「ポジティブリスト制度」に則って、残留基準を超えたものの販売を制限しています。

ポジティブリスト制度

平成15年に国会で制定、平成17年に施行された、全ての農薬に対して残留農薬の基準を定めたものです。これは指定された食品の成分(農薬以外にも、医薬品、飼料添加物を含む)には国際的または国内で決められた基準値を定めていますが、それ以外の指定がない成分も一律基準を定め、それを超えた残留をしてはならないとされています。

ただし、一部の農薬(人の健康を損なうおそれのないことが明らかであるものとして厚生労働大臣が定める物質)は「ポジティブリスト制度」の対象外となっています。

指定のある残留農薬、一律基準、「ポジティブリスト制度」の対象外

残留農薬は、国際基準がある場合や海外基準がある場合はそれに従います。国内では食品安全委員会が評価をして基準を設定します。また「ポジティブリスト制度」で指定されていない食品成分の中で、人が健康を損なう恐れがない量として、食品1kgあたりに農薬等が0.01mg含まれる濃度を「一律基準」としています。

具体的な数値と単位は「0.01ppm」です。一律基準が0になっていない理由は、厚生労働省が公開した資料に書かれていました。要約すると、健康を損なう程度ではない微量の成分まで違反食品と定めてしまうと、食品の流通が不用意に妨げられる可能性を危惧したからとのことです。

また「人の健康を損なうおそれのないことが明らかであるものとして厚生労働大臣が定める物質」は、具体的には亜鉛、カリウム、カルシウムといったものがあります。これらは農薬にも使用され、人が摂取しても健康を損なう恐れがないことが明らかな成分としてポジティブリストから除外されています。

食品安全委員会の評価方法

主に一日摂取許容量(ADI)、急性参照用量(ARfD)、暴露評価対象物質を指標としています。農薬の食品健康被害の評価には急性毒性試験、中長期的な毒性試験、代謝試験、一般や栗試験、環境中の試験、残留試験など、幅広い試験が行われます。

一日摂取許容量(ADI)は「人が農薬を含む食品を毎日摂取しても健康への悪影響がない最高含有濃度を、人間1日の摂取量に換算した値」、また急性参照用量は「人が農薬に含む食品を24時間またはそれより短期間に摂取しても健康に悪影響のない最高含有濃度を人間1日の摂取量に換算した値」です。

暴露評価対象物質は、体内で毒に変化するかどうかの指標です。以上の食品安全委員会の評価がまとまったら、対象の農薬を摂取しても健康被害が起きないとされる基準が設定されます。

コーデックス委員会

FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保険機構)の共同により設置されている国際機関です。基準は主に二つあり、農畜産物が生産から食卓に運ばれるまでの流通の安全についての基準と、食品の品質に関しての基準が定められています。

コーデックスの残留農薬の基準は最大残留農薬基準値(MRL)、外因性最大残留基準(EMRL)を農薬ごとに定めています。国内で基準を作るときは、MRLをそのまま基準値にするのではなく、ADI・ARfDの指標を超えないように比較検討する必要があります。

残留農薬の歴史

戦後に食料不足の改善のために日本は食料の増産を掲げていましたが、粗悪な農薬の流通が増えたことで農家への損害を防ぐために制定されたものが「農薬取締法」でした。日本で初めて残留農薬が問題視されたのは、高度経済成長期における環境問題が取り上がった時です。

土壌汚染、水質汚染、人間の健康被害について注目されるようになったことで、「農薬取締法」の大幅な改正に踏み込むことになりました。昭和38年には水産動植物の保護を目的として、昭和46年には人間と畜産の健康被害を防ぐ目的で改正されました。

その後、平成14年度に無登録の農薬の販売・使用が社会問題となり、平成14年から15年に渡り無登録農薬使用の重罰化と、農薬の製造・販売・輸入の制限、農薬の使用基準の設定が行われました。また、この時に食品衛生法の改正とポジティブリストの制定も行われています。

輸入食品の検査について

輸入食品は厚生労働省の「輸入食品監視指導計画」に基づいて規格基準に適合しているか審査を行なっています。輸入業者は輸入する食品に関して届出を行い、その書類を食品衛生監視員が審査し、食品衛生法違反がないかチェックします。

もし問題が疑われた場合は厚生労働大臣の名前の下で食品衛生監視員から「検査命令」が下され、自治体が検査を行います。もし輸入食品の食品衛生法違反が判明した場合は、輸出国へ戻すか、廃棄などの措置がとられます。

その他にも食品衛生監視員は定点的にモニタリング、登録検査機関(厚生労働省に認定されたGLP(優良試験場規範)に基づく検査機関)による検査が行われ、また流通後は自治体が監視や抜き取り検査を行います。回収や販売禁止などの措置も自治体が行います。

総括

ある実験で農薬を使わない農作を行って被害を検討したところ、生産性が著しく落ち込み、一部の作物は全く取れなかったという結果になったといいます。日本の総人口増加が続いている今日において、農薬は生産性を維持するために必要であり、農家の生活を守るためのものでもあります。

市場に流通している大量の食材も様々な検査を受けてきたものであると知れば、我々消費者の残留農薬についての理解もより深まっていくはずです。