残留農薬を食品に残さないようにするための制度

人間の健康に大きな影響を与えるのが、毎日の食事です。食べ物に含まれている成分の中でも、人間に影響を与える危険性が指摘されているのが残留農薬で、国でも残留農薬に関する制度を定めて、国民の健康維持に努めています。

ここでは、残留農薬を規制するための制度について詳しく紹介するので、残留農薬に関心を持っている人はぜひ参考にしてください。

食品の販売や輸入が禁止される制度

残留農薬が食品に大量に含まれていると、人間の健康に悪影響を及ぼしてしまうので、国は独自の対策をとっています。残留農薬を規制するために実施されているのがポジティブリスト制度で、食品衛生法の規定によって、一定の量の農薬が残留している食品は販売が禁止されています。

ポジティブリストは国内で生産された食品だけでなく、海外から輸入された食品も対象にしています。輸入をする時にあらかじめ検査を受けて、残留農薬が基準値を超えている場合には、食品を全て廃棄処分する必要があります。

こうした制度を厳格に実施することによって、国民の食の安全が守られているので、国民の健康にとっては非常に重要な制度です。食品が販売できなくなる残留農薬の量は、使用する農薬や食品の種類ごとに細かく決められています。

それぞれの食品にとって最適な農薬の使用量を考慮することで、残留が許される最小の基準が決まります。農薬の使用方法によっても、残留農薬の基準は変わることがあり、収穫直前に農薬を使用する場合には、農薬の残存量も多くなる傾向があります。

残留農薬とコーデックス基準

農薬の残留基準が細かく決められるようになったのは、食の安全に対する国民の意識が大きく変化したことが理由としてあげられます。ポジティブリスト制度が施行される以前の日本では、残留農薬に関する基準が細かく設定されておらず、残留農薬の基準が定められていたのはおよそ280種類の農薬だけでした。

それ以外の農薬については残留農薬の基準がなかったために、食の安全という面から疑問視する声も多く上がったため、新たな制度が誕生することになりました。ポジティブリストが施行されたことによって、残留農薬の基準が定められた農薬の種類は799種類まで増加しました。

新しく残留基準が設定された農薬の基準を決めるために参考にされたのが、コーデックス委員会が定めた国際的な基準です。コーデックス基準が存在する場合には、国内登録がある農薬もない農薬も、コーデックス基準によって残留農薬が設定されました。

コーデックス基準が存在しない農薬の場合には、国内登録のあるなしによって基準の決め方が違っています。

残留基準が決められていない農薬に適用される一律基準

ポジティブリストでは幅広い種類の残留農薬を規制の対象にしていますが、全ての農薬に明確な基準が定められているわけではありません。残留基準が決められていない農薬に対して、ポジティブリストで適用されているのが、一律基準という制度です。

人間の健康に害を及ぼす危険性がないと考えられる量を考慮して、一律基準は決められています。一律基準を決定するにあたっては、国際的機関の評価や国内での農薬の許容量も参考にされて、最終的に0.01ppmという値に決定しました。

これは、食品1kgに含まれている残留農薬の量が0.01mgの場合の濃度です。一律基準が0とならなかったことには理由があります。国民が安全に食べ物を食べられるようにするためには、残留農薬の基準は厳しい方が良いのですが、基準値を0にしてしまうと、人の健康を害する危険性がない農薬が残留している時にも、食品の販売を禁止しなければいけない場合があるからです。

食品の流通を阻害しないようにするために、最小限の規制として0.01ppmという基準を設定しています。

対象外となっている物質

残留農薬を規制するポジティブリスト制度では、制度の対象外になっている物質もあります。制度の対象となっていないのは、人体に害を与える危険性がないことが明らかになっているからです。対象外となっているのは65種類の物質で、亜鉛やケイ素なども含まれています。

人体に害を与える危険性がないかどうかは、2つの基準によって判断されています。そのうちの一つがADIという基準で、これは長期間に同じ残留農薬を摂取し続けた場合を想定して、決められている基準です。人間が一生涯にわたって食品に含まれている残留農薬を摂取したと仮定して、健康に害を及ぼさないと考えられる一日あたりの残留農薬の量がADIです。

安全性を確認するうえでもう一つの基準となっているのがARfDという基準です。これは短期間に多くの残留農薬を摂取した場合を想定して決められている基準です。24時間もしくはそれよりも短い時間の間に摂取しても、健康に害を及ぼす危険性がないと判断される残留農薬の量がARfDです。

長期と短期の2つの基準により安全性を確認することで、食べ物の適正な流通が可能になっています。

ポストハーベストとして農薬を使用する場合

食品に残されている残留農薬を検査するうえで注意しなければいけないのは、ポストハーベストとして農薬を使用する場合です。食品の種類によっては、収穫をした後にも農薬を散布することがありますが、これは食品にカビなどが発生するのを防止する目的でおこなわれています。

収穫の後に農薬が使用された場合には、残留農薬ではなくて食品添加物として取り扱われるところが重要なポイントになり、食品添加物として使用することが許可されていない農薬は、原則としてポストハーベストに使用することはできません。

食品添加物として使用できる農薬であっても、使用する量によっては一定の規制を受けることがあります。収穫後に農薬を散布した場合には、通常よりも食品に農薬が残りやすくなりますが、残留農薬が一定の量を超えている場合には、食品として販売することが不可能になります。

同じ農薬が使用されている場合には、収穫前に使用した場合にも収穫後に使用した場合にも、同一の基準によって判断されるので、基準を下回る程度に使用量を抑える必要があります。

残留農薬を規制することで確保される食の安全

残留農薬の規制に関する制度について紹介してきましたが、食品に含まれる残留農薬の量を制限することにより、国民が安全に食物を摂取することができます。昔は対象となっていた農薬の量も少なかったのですが、新しい制度が誕生したことにより、従来よりも多くの農薬が規制の対象になりました。

食の安全を確保するために、さらに制度が充実することが期待されています。